「民事執行法の改正に関する中間試案」についての意見

 現在、民事執行法の改正について、法制審議会民事執行法部会がとりまとめた中間試案に対するパブリック・コメント(意見公募手続)が行われています。意見募集期間は、2017年11月10日までです。
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 全国ヤミ金融・悪質金融対策会議では、次のとおり、意見を述べました。

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「民事執行法の改正に関する中間試案」についての意見


2017年10月26日
〒113−0033
東京都文京区本郷2−13−10 湯淺ビル7階
東京市民法律事務所内
全国ヤミ金融・悪質金融対策会議
代表幹事 弁護士 宇都宮 健児

 法制審議会民事執行法部会がとりまとめた「民事執行法の改正に関する中間試案」(以下「本中間試案」という。)について、次のとおり、意見を述べます。

第1 意見の趣旨
1 本中間試案の第1の1について
 「財産開示手続の申立に必要とされる債務名義の種類(民事執行法第197条第1項柱書き)を拡大し、金銭債権についての強制執行の申立に必要とされる債務名義であれば、いずれの種類の債務名義についても、財産開示手続の申立をすることができるものとする。」こと、及び「手続違背に対する罰則の見直し」として、不出頭、宣誓拒絶、陳述拒絶、虚偽陳述のいずれについても「罰則を強化するものとする。」ことには、反対である。
 また、「財産開示手続の実施要件のうち、先に実施した強制執行の不奏効等の要件を廃止」し、「強制執行を開始するための一般的な要件が備わっていれば、財産開示手続を実施することができるものとする。」考え方にも、反対である。

2 本中間試案の第1の2について
 「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度」として、「一定の公的機関から、債務者の給与債権に関する情報(勤務先の名称及び所在地)を取得する制度を設けるものとする。」ことには、反対である。
 もし仮に、「執行裁判所が、債権者からの申立により、債務者以外の第三者に対し、債務者財産に関する情報の提供を求める制度を新たに創設するものとする。」のであれば、「債務者の給与債権に関する情報」よりも、むしろ、「金融商品取引業者が有する株式、社債、投資信託受益権等に関する情報」や「公的機関が有する不動産に関する情報」こそ、対象とすべきである。

3 本中間試案の第5の1について
 「民事執行法第152条第1項各号の債権の差押えが禁止される範囲を見直し、現行の規律による差押禁止範囲に加えて、支払期に受けるべき給付のうち一定の金額まではその全額を差押禁止とするものとする考え方」には、賛成である。このような考え方を、今回の民事執行法の改正において、必ず、導入すべきである。  


第2 意見の理由  
1 はじめに
 全国ヤミ金融・悪質金融対策会議(以下「当会議」という。)は、消費者の生活と人権を守り、中小零細事業者の経営を守るため、改正貸金業法下の金利規制および総量規制を実効あらしめること、多重債務被害を根絶すること、ヤミ金融を一掃すること等を目的とし、主として、弁護士・司法書士・被害者の会等によって構成された団体である。
 当会議は、本中間試案の「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」には、概ね反対である。ここには、消費者の生活と人権を守るという観点から、看過できない重大な問題がある。 他方、本中間試案の「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」に示された考え方には賛成である。これは、「引き続き検討するものとする。」というのではなく、今次改正において必ず導入すべき喫緊の課題である。

2 総論的な意見(本中間試案の第1及び第5について)
(要旨)
 金銭債権の債務名義の効力を強化しようという場合、まず考えるべきは、どのような債権者が最も多く金銭債権の債務名義を有するかである。 わが国において、債務名義取得者の多くは、消費者金融業者であり、クレジット会社であり、債権回収会社である。
 これらの業者らが零細な債務者を相手方として債権を取り立てるという現状を考えても、なお本中間試案のような金銭債権の履行確保策を図るかどうかについて、議論する必要がある。
 また、債務の不履行が必ずしも悪意や怠慢によるのではなく、やむを得ない事情により債務の履行をなしえない状況に置かれている債務者も多い。このような債務者の生活保障の点についても、あわせて検討されなければならない。
(1) 民事執行法の改正を検討するに際し忘れてはならないこと
   法制審議会民事執行法部会は、平成29年9月8日開催の第11回会議において、本中間試案をとりまとめた。報道によれば、「養育費の不払いへの対策」として、民事執行法の改正が検討されることとなった、ともいわれる。
 しかし、本中間試案の「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」は、単に、養育費の不払いへの対策にとどまらず、全ての金銭債権の債務名義の効力を強化しようとするものである。そして、わが国において、債務名義取得者の多くは、消費者金融業者であり、クレジット会社であり、債権回収会社であることを考えれば、本中間試案によって、最も利益を受けるのも、これらの業者らである。
 その反面、本中間試案に基づき金銭債権の債務名義の執行力を強化することにより、最も不利益を受けるのは零細な借り手であることも、忘れてはならない。 
(2) 債務名義取得者の圧倒的多数は誰か
    かつて、東京地方裁判所民事第20部(破産部)の部総括判事をつとめた園尾隆司氏は、このような「財産開示手続の強化その他の判決の履行確保策への一つの視点」として、次のように述べている。
 「金銭債権の債務名義の効力を強化しようという場合、まず考えるべきは、どのような債権者がもっとも多く金銭債権の債務名義を有するかである。債務名義の効力の強化は、多くの債務名義を有する債権者がもっとも利益を受けるからである。」「債務名義取得者の圧倒的多数は消費者金融業者である。」「債務名義をもっとも多く有する小口高利金融業者が、零細な借り手を相手方として債権を取り立てるという明治以来の現状に基本的に変化がないことを考えても、なお提案のような金銭債権の履行確保策を図るかどうかについて議論する必要があろう。」と(判例タイムズ1388号5頁)。
 これは、破産事件を通して、多重債務の問題に接してきた経験をもつ裁判官(当時)からの極めて重要な指摘である。法制審議会の議論では、このような「視点」が欠けているのではないかという疑問がある。
(3) 債務の履行をなし得ないことは債務者の悪意・怠慢によるのか
    また、「今日、債務者が経済危機に陥り、債務の履行をなしえないことが、必ずしも債務者の悪意や怠慢によるのではなく、国際経済の変動や国の金融政策の結果であり、あるいは債務者をとりまく社会環境の影響であることは常識に属する。」とは、既に、民事執行法の制定当時から指摘されてきたことである(竹下守夫「民事執行における実体法と手続法」30頁)。
 そうすると、今回の民事執行法の改正により、上記のように、悪意や怠慢によるのではなく、やむを得ない事情により債務の履行をなしえない状況に置かれた債務者に対し、看過し得ない不利益を及ぼすおそれはないかといったことについても、あわせて検討されなければならない。
 このような観点からすれば、本中間試案の「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」についても、今回の民事執行法の改正において、必ず実現すべきである。

3 財産開示手続の実施要件の見直し(本中間試案の第1の1(1))について
(要旨)
 支払督促は、すでに時効消滅した債権に基づき発令されていることも 多い。公正証書は、白紙委任状を利用して作成されることもある。これらの債務名義(後になって権利の存在が否定されるに至る可能性がある もの)については、財産開示手続の申立を認めるべきでない。
 財産開示手続の手続違背に対する罰則を強化するのであれば、特に違法性が高いと考えられる虚偽陳述の場合に限るべきである。また、罪刑 の均衡という観点からすれば、手続違背に対して科される刑罰は罰金刑 とすべきであり、法定刑として懲役刑まで設けるべきではない。
 財産開示手続は債務者のプライバシー等に属する事項の開示を強制す るものであるから、この手続を実施するのは、その必要性がある場合に 限るべきである。本中間試案のように、不確かな債務名義に基づき(債務名義の種類の拡大)、安易に財産開示手続の実施を認めた上で(不奏効 等の要件の見直し)、しかも手続違背に対する罰則を強化するということについては、消費者の生活と人権を守るという観点から、強く反対せざるを得ない。
(1) 本中間試案の考え方について
   本中間試案は、「財産開示手続の申立てに必要とされる債務名義の種類(民事執行法第197条第1項柱書き)を拡大し、金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば、いずれの種類の債務名義についても、財産開示手続の申立てをすることができるものとする。」とし、また「手続違背に対する罰則の見直し」として、不出頭、宣誓拒絶、陳述拒絶、虚偽陳述のいずれについても「罰則を強化するものとする。」という。
 さらに、本中間試案では、本文とは別に、「財産開示手続の実施要件のうち、先に実施した強制執行の不奏効等の要件を廃止」し、「強制執行を開始するための一般的な要件が備わっていれば、財産開示手続を実施することができるものとする。」との考え方が、紹介されている。
 しかし、当会議は、このような考え方には、いずれも反対である。 
(2) 債務名義の種類の拡大について
   財産開示手続の申立に必要とされる債務名義の種類については、平成15年の民事執行法の改正の際にも議論されたが、財産開示手続により債務者財産に関する情報がいったん開示されると、後になって権利の存在が否定されるに至った場合であっても、当該情報が開示されなかった状態に回復することができないというこの手続の特質を重視して、申立に必要とされる債務名義の種類を制限するとされたものである。
 例えば、「仮執行の宣言を付した判決」も、上訴審で取り消され、変更されることは珍しくない。ましてや、「仮執行の宣言を付した支払督促」であれば、督促異議の申立てによる訴訟への移行を経て、その内容が変更されるのは、よくあることである。また、消費者金融業者や債権回収会社等が、すでに時効消滅した債権に基づき支払督促の申立をしていることも多い。たとえ「確定判決と同一の効力を有する支払督促」でも、既判力は認められないから、後訴によって、その効力が否定されるべきことがある。
 さらに、「執行証書」(強制執行認諾文言付の公正証書)については、その成立過程や合意の存否、内容等を巡る紛争が、数多く繰り返されてきた。債務者本人の知らないところで、白紙委任状を利用して、無権代理人によって公正証書が作成されることもあるし、利息制限法や出資法に違反するような高利の貸付を行う者が、公証人に対し、そのことを秘したまま、公正証書を作成させていることもある。
 これらの状況は、平成15年の法改正の後も変わりがないから、今回の法改正においても、上記のような債務名義(後になって権利の存在が否定されるに至る可能性があるもの)について、財産開示手続の申立を認めるべきでない。 
(3) 手続違背に対する罰則の強化について
   また仮に、財産開示手続の「手続違背に対する罰則の強化」をするのであれば、特に違法性が高いと考えられる虚偽陳述の場合に限るべきである。これに対し、不出頭、宣誓拒絶、陳述拒絶についてまで罰則を強化するものとし、刑事罰を科するのは、いきすぎである。
 そして、罪刑の均衡という観点からすれば、手続違背に対して科される刑罰は罰金刑とすべきであり、法定刑として懲役刑まで設けるべきではないと考える。 
(4) 先に実施した強制執行の不奏効等の要件の見直しについて
   現行法が財産開示手続の実施要件として、先に実施した強制執行の不奏効等を要求しているのは、財産開示手続が債務者のプライバシー等に属する事項の開示を強制するものであるため、この手続を行う必要性がある場合に限り、手続を実施するのが相当であるとの考え方に基づくものである。 現行法のこのような考え方には合理性がある。単に「強制執行を開始するための一般的な要件」が備わっているというだけでは、債務者に対して、プライバシー等に属する事項の開示を強制することはできない。
 とくに、本中間試案のように、一方では、財産開示手続の申立に必要な債務名義の種類を拡大するものとした上で、さらに、このような財産開示手続の実施要件の見直し(要件緩和)まで行い、しかも手続違背に対する罰則を強化するものとすることには、弊害が大きい。
 このように、不確かな債務名義に基づき、安易に財産開示手続の実施を認めた上で、しかも債務者に対する罰則を強化するということについては、消費者の生活と人権を守るという観点から、強く反対せざるを得ない。 
(5) 結論
   以上より、当会議は、仮執行の宣言を付した判決、仮執行の宣言を付した支払督促、確定判決と同一の効力を有する支払督促、執行証書について、財産開示手続の申立をすることができるものとすることには、反対である。
 また、手続違背に対する罰則の強化は、虚偽陳述の場合に限るべきである。手続違背に対して科される刑罰は罰金刑とすべきであり、懲役刑を法定化することは妥当でない。
 さらに、当会議は、財産開示手続の実施要件のうち、先に実施した強制執行の不奏効等の要件を廃止し、強制執行を開始するための一般的な要件が備わっていれば、財産開示手続を実施することができるものとする考え方にも、反対である。 

4 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設(本中間試案の第1の2(1)、同(2))について
(要旨)
 給与の差押は、債務者に対しては重大な威嚇力を有し、その反面として債権者による濫用のおそれが否定できないものである。現に、これまでにも、高利金融業者らにより、零細な債務者を威嚇する手段として、 給与の差押が行われてきた。
 債権者が公的機関から債務者の給与債権に関する情報を取得する制度を設けることには反対である。もし仮に、これも養育費の未払への対策であるというのであれば、養育費等債権を請求する場合に限定した制度 とすべきである。
 執行裁判所が、債権者からの申立により、債務者以外の第三者に対し、 債務者財産に関する情報の提供を求める制度を創設するのであれば、給与債権に関する情報よりも、むしろ、金融商品取引業者が有する株式、 社債、投資信託受益権等に関する情報や公的機関が有する不動産に関する情報こそ、対象にすべきである。
 勤務先の名称及び所在地は、不動産に関する情報のように登記制度によって公示されているものとは異なり、プライバシーとして保護すべき必要性が高いものである。また、本中間試案が、法人(事業者)の売掛債権を対象にせず、個人(給与所得者)の給与債権のみを対象にしようとしていることも、不合理である。
 単に「対象となる第三者が答えてくれそうだから」という理由で、給 与債権に関する情報を狙い撃ちするような形で、このような法制度を作 ることは妥当でない。消費者の生活と人権を守るという観点からは、極 めて重大な問題があると言わざるを得ない。
(1) 本中間試案の考え方
   本中間試案は、「執行裁判所が、債権者からの申立により、債務者以外の第三者に対し、 債務者財産に関する情報の提供を求める制度を新たに創設するものとする。」とした上で、 「一定の公的機関から、債務者の給与債権に関する情報(勤務先の名称及び所在地)を取得する制度を設けるものとする。」という。
 しかし、当会議は、このような考え方には、反対である。 
(2) 零細な債務者を威嚇することに国が手を貸すのか
   そもそも、「賃金債権の差押えは債務者の経済状態を使用者に告知する結果となるため、債務者に対しては重大な威嚇力を有し、その反面として債権者による濫用の恐れが否定できない。」し、「また、使用者にとっては差押えに伴う会計事務の煩雑化など実際上の不都合も生じ、ときには債務者の解雇といいう重大な結果を誘発することすらあり得る。」ものである(山本和彦「消費者信用における賃金の責任財産性の検討」三ヶ月章先生古稀祝賀民事手続法学の革新下巻292頁)。
 そして、現に、これまでにも、高利金融業者により、零細な債務者を威嚇する手段として、生活の糧となるべき給与の差押が行われてきた。そのため、債務者の生活に深刻な影響を及ぼし、ときには、退職を余儀なくされるなどのこともあった。「一定の公的機関から、債務者の給与債権に関する情報(勤務先の名称及び所在地)を取得する制度を設けるものとする。」ことには、高利金融業者が零細な債務者を威嚇することに国が手を貸すのか、という看過できない問題がある。
 もし仮に、これも「養育費の不払いへの対策」であるというのであれば、民事執行法151条の2第1項各号の債権(扶養義務等に係る定期金債権)を請求する場合に限定した制度とすべきである。全ての金銭債権の債務名義の効力として、このような制度を認めることは、妥当でない。 
(3) なぜ他のより効果的な財産に関する情報を対象にしないのか。
   また仮に、「執行裁判所が、債権者からの申立により、債務者以外の第三者に対し、債務者財産に関する情報の提供を求める制度を新たに創設するものとする。」のであれば、債務者の給与債権に関する情報よりも、むしろ、金融商品取引業者が有する株式、社債、投資信託受益権等に関する情報や公的機関が有する不動産に関する情報こそ、対象とすべきである。これらの財産をもっているにもかかわらず、債務名義があるのに支払わない不誠実な債務者の「逃げ得」を許さないことこそ、今回の民事執行法改正の目的とすべきである。
 本中間試案の内容では、株式、社債、投資信託受益権等の金融商品や不動産などの資産を有し、本来、弁済の資力があるにもかかわらず、債務名義があるのに支払わない不誠実な債務者に対しては、何らの効果もない。他方で、弁済の資力がないために、債務名義に基づく支払をすることができずにいる零細な債務者にとっては、過酷な状況を招くことになる。不均衡であると言わざるを得ない。
 また、「どの会社で、どのような仕事をしているか。」という情報は、不動産に関する情報のように、登記制度によって公示されているものとは異なり、債務者のプライバシーとして保護すべき必要性が高いものである。本中間試案は、公的機関が有する不動産に関する情報を対象にしていないにもかかわらず、あえて給与債権に関する情報(勤務先の名称、所在地)を対象にしようとするが、このような考え方には、合理性があるとは思えない。
 さらに、本中間試案では、法人(事業者)の売掛債権は対象にせず、個人(給与所得者)の給与債権のみを対象にしようとするのであるが、この点についても、合理的な説明は不可能である。 
(4) なぜ給与債権に関する情報を狙い撃ちにするのか。
   本中間試案は、一体どうして、上記のように、他のより効果的な財産に関する情報(株式、社債、投資信託受益権等に関する情報、不動産に関する情報、法人の売掛債権に関する情報等)を差し置いてまで、よりによって「債務者に対しては重大な威嚇力を有し」「債権者による濫用の恐れが否定できない」(山本和彦・前掲)給与の差押につながる情報(勤務先の名称、所在地)を、真っ先に対象にしようとするのか。
 この点、あるいは、現時点では、株式、社債、投資信託受益権等に関する情報については証券会社等の協力を得られるかどうか不明である(法制審議会の委員には銀行からの参加者はあるが、証券会社からの参加者はいない。)とか、不動産に関する情報については所管する総務省・法務省が開示に消極的であるとか、法人の売掛債権についての情報を有する税務署からは情報開示を期待することはできないというような事情があるのではないか、とも思われる。
  しかし、そのような事情があるとしても、だからといって、単に「対象となる第三者が答えてくれそうだから」という理由で、給与債権に関する情報を狙い撃ちするような形で、このような法制度を作ることは妥当でないことは、明らかである。消費者の生活と人権を守るという観点からは、極めて重大な問題があると言わざるを得ない。 
(5) 結論
   以上より、当会議は、「一定の公的機関から、債務者の給与債権に関する情報(勤務先の名称及び所在地)を取得する制度」を新設することには、反対である。
 もし仮に、第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度を新設するのであれば、債務者の給与債権に関する情報よりも、むしろ、金融商品取引業者が有する株式、社債、投資信託受益権等に関する情報や、公的機関が有する不動産に関する情報こそ、対象とすべきである。 

5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し(本中間試案の第5の1)について
(要旨)
 給与等債権について、差押禁止の最低限度額を定めることは、債務者 の生活の保障として、当然に必要である。給与の差押により、債務者が 「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る生活を強いられるというような事態は、生存権保障の観点から(憲法第25条)、看過できない。
 この場合、債務者の申立を待たず、当初からの差押禁止の最低限度額 としては、債務者の扶養家族等の数にかかわらず、絶対的な数値を定め るべきである。その上で、扶養親族等があるときは、債務者の申立によ り、その人数に応じて、差押禁止の最低限度額を拡張できるものとすべきである。もっとも、上記のとおり差押禁止の最低限度額を定めた場合でも、債権者が、養育費等債権を請求する場合については、適用対象外とすることが相当である。
  このような考え方に対しては、債務者が比較的少ない額の給与等を複 数の勤務先から得ているような場合について、差押禁止額の累積による 不都合を指摘するものがある。しかし、このような場合には、むしろ、債務者は、複数の勤務先からの給与等がなければ生活が成り立たないことが通常であると考えられる。このような債務者について、一般的に保護の必要を欠くかのように論じることは、誤りである。
 また、差押禁止額のいわば累積という点については、現行法でも、差 押禁止額の上限(支払期が毎月と定められている場合 33万円)の適 用に関し、同じ問題があるが、この問題への対処は、債権者の申立によ る差押禁止範囲の変更(民事執行法第153条)に委ねられている。今 回、差押禁止額の下限を定めた場合にも、もし差押禁止額の累積による 不都合があるとすれば、その問題への対処は、債権者の申立による差押。
(1) 本中間試案の考え方
   本中間試案は、「民事執行法第152条第1項各号の債権の差押えが禁止される範囲を見直し、現行の規律による差押禁止範囲に加えて、支払期に受けるべき給付のうち一定の金額まではその全額を差押禁止とするものとする考え方」について、引き続き検討するものとするという。
 当会議は、上記のような考え方には、賛成である。このような考え方については「引き続き検討するものとする。」というのではなく、今回の法改正において、必ず、上記の考え方を導入すべきである。 
(2) 制度の必要性
   この点については、民事執行法の制定当時から議論され、「民事執行法の下での給料債権差押禁止制度は、給料生活者たる債務者の保護としては、なお不十分であるといわざるをえない。」ことが指摘されてきた(竹下守夫・前掲34頁)。
 すなわち「民事執行法の給料債権差押禁止では、…152条1項括弧書きにより、差押禁止の最大限度は定められることとなったが、逆にこの金額までは絶対的に差押禁止になるという、最小限度額は定められていない。しかし、このような最小限度額の定めは、給料債権の性質上債務者の生活の保障として当然必要な筈である。現に国税徴収法はそのような定めを置いているし…、ドイツ民事訴訟法もまた同様である…。」というのである(竹下守夫・前掲35頁)。
 そして、民事執行法の制定当時、上記のような定めを置かなかったことについては、「債務者の側からそれを正当化する理由としては民事執行法153条の債務者申立による差押禁止範囲の変更の規定の存在が挙げられた。」ものの、その後、「153条の運用がそのような機能を有効に果たし得ているかには多分に疑問がある。」ということを前提にすれば、諸外国の規制から問題となり得る点として、「差押最低限度額の設定(生活保護や最低賃金が一応の目安となろう。…)…が立法論の課題となろう。」と指摘されてきた(山本和彦・前掲294頁)。
 今回、民事執行法の改正により、現行の財産開示手続の実施要件を緩和し、手続違背に対する罰則を強化するとともに、第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度を新設するのであれば、あわせて、無資力の債務者の生活保障のために、上記のような考え方に基づき、差押禁止債権をめぐる規律の見直しをすることは、必要不可欠である。
(3) 本中間試案の考え方の具体化案
  ア 給与等債権の差押禁止の最低限度額
   本中間試案の考え方を具体化するに当たり、給与等債権の差押禁止の最低限度額を具体的にいくらにするかについては、例えば、ドイツ民事訴訟法のように、債務者の扶養家族の数に応じて金額を定めることも考えられる。
 しかし、このような考え方に対しては、債権執行の申立の際に、債権者が債務者の扶養家族の人数を明らかにすることは困難であるという難点が指摘される。そのため、差押命令の送達を受けた第三債務者において、過大な負担(差押禁止の範囲を調査・判断する負担や二重払いの係争に巻き込まれるリスク)を負うこととなりかねないという問題がある。
  そこで、債務者の申立を待たず、当初からの差押禁止の最低限度額としては、債務者の扶養家族の数にかかわらず、絶対的な数値を定めるべきである。その金額は、「単身世帯における生活保護の基準を勘案して政令で定める」こととし、民事執行法施行令において、その額を「支払期が毎月と定められている場合 10万円」等と定めることが相当である(この金額は、国税徴収法施行令34条を参考にしている。)。  
イ 家族数に応じた差押禁止の最低限度額の拡張
   もっとも、上記の差押禁止の最低限度額は、債務者の家族数を考慮していないから、多くの家族を扶養する債務者(及びその世帯)にとっては、最低限度の生活保障の要請を満たさないものとなってしまう。 民事執行法制定の際にも、このような問題があるために、扶養家族の人数を考慮せず、給料等の額に応じて差押禁止債権の範囲を定めることには合理性がないことが指摘されていたものである。
 そこで、この点に対処するために、債務者に控除対象配偶者(所得税法2条1項33号)や扶養親族(同項34号)があるときは、債務者の申立により、「これらの者の数に応じて生活保護の基準を勘案して政令で定める額」まで、差押禁止の最低限度額を拡張し、執行裁判所は、その限度で、差押命令を取り消さなければならないものとすべきである。その金額については、民事執行法施行令で「10万円にこれらの者1人につき4万5000円を加算した金額」等と定めることが相当である(この金額は、国税徴収法施行令34条を参考にしている。)。
 そして、執行裁判所は、債務者から、控除対象配偶者、扶養親族の存在を示す一定の書類(世帯全員の住民票、非課税証明書等)さえ提出されれば、上記のとおり定められた一定の範囲で、可及的速やかに、差押の取消をしなければならないものとすべきである。  
ウ 扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合について
   なお、上記のとおり、給与等債権の差押禁止の最低限度額を定めたときも、債権者が、民事執行法151条の2第1項各号の債権(扶養義務等に係る定期金債権)を請求する場合については、扶養等を受ける債権者の生活保障という観点も踏まえて、差押禁止の範囲を通常の4分の3から2分の1に狭めているものであるから、その趣旨に鑑み、上記の法改正の対象とせず、現行法どおり、同法152条3項の基準によることが相当である。  
 
(4) 指摘される問題点(複数の勤務先から給与等を得ている場合)
ア 問題点の指摘
   ところで、上記のような考え方に対しては、債務者が比較的少ない額の給与等を複数の勤務先から得ているような事案を想定すると、差押禁止額のいわば累積により債務者が必要以上の保護を受ける結果となり不都合ではないかといったことが問題点として指摘されている。
 しかし、債務者が比較的少ない額の給与等を複数の勤務先から得ているような場合は、むしろ、債務者は、複数の勤務先からの給与等がなければ生活が成り立たないような状況に置かれていることが通常であるとも考えられる。このような債務者について、一般的に保護の必要を欠くかのように論じることは、誤りである。   
イ 債務者の生存権の保障にもかかわる問題であること
   確かに、場合によっては、差押禁止額のいわば累積により、債務者が必要以上の保護を受けるようなケースがあり得るとしても、それは、例外的な事例であると考えられる。
 そのような例外的な事例があり得ることを理由に、たとえ、債務者が1つの勤務先から比較的少ない額の給与等を得ているときに、唯一の生活の糧となるべき当該給与の差押を受けた場合であっても、債務者が自ら差押禁止範囲の変更(民事執行法第153条)の申立をしない限り、又は複数給与の不存在(他の勤務先から給与を受けていないこと)を立証しない限り、差押禁止(の最低限度額)による保護を受けられないとすることは相当でない。
 このような事態は、債務者の生存権保障(憲法第25条)の観点から、看過することは許されない。   
ウ 現行法で差押禁止額の累積はさほど問題視されていないこと
   なお、差押禁止額のいわば累積という点については、現行法でも、差押禁止額の上限(支払期が毎月と定められている場合 33万円)の適用に関し、同じ問題がある。すなわち、債務者が1つの勤務先から給与を得ている場合、33万円を超える部分は(給与の4分の1に限らず)いくらでも差し押さえられるのに対し、債務者が2つの勤務先から給与を得ている場合、最大66万円まで差押が禁止される結果となる、というものである。
 しかし、この問題への対処は、債権者の申立による差押禁止範囲の変更(民事執行法第153条)に委ねられている。こうして、現行法においては、差押禁止額の上限の適用につき、差押禁止額のいわば累積ということが、さほど問題視されていないにもかかわらず、今回、差押禁止額の下限を導入しようとするとき、この点を過度に強調することは妥当でない。
 そうすると、差押禁止の最低限度額を設けた場合において、差押禁止額のいわば累積により、債務者が必要以上の保護を受けることとなるケースが生じる可能性があるという問題への対処は、債権者の申立による差押禁止範囲の変更(民事執行法第153条)に委ねることが相当である。 
 
(5) 結論
   以上より、当会議は、民事執行法第152条第1項各号の債権については「一定の金額まではその全額を差押禁止とするものとする考え方」に賛成である。
 このような考え方を、今回の民事執行法の改正において、必ず、導入すべきである。その考え方の具体化案は、上記のとおりである。 
以上

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